心霊現象

12日の木曜の夜、妙に寝付きが悪かった日がありました。深夜2時を過ぎた頃、右に寝返りを打って首を伸ばした時、唐突に金縛りになりそうな気配を感じて、実際すぐに金縛りに遭いました。

いつもならそれだけで終わるのですが、この日は突如体中の毛穴が開くようなゾワっとする気配を感じて、次の瞬間には目の前に長い髪で顔を覆った女がドサっと現れ、首を絞めて来ました。

女は自分とは逆さまに向き合っているので、物理的に相手の体はベッドのヘッドボードや窓を突き抜けている筈なのですが、その時は特にそんな事は気にもならず、目の前にある髪で覆われた顔を見ようと目を凝らしていました。相手の顔は結局よく分からなかったんですが、不思議と恐怖心も感じなかったので、しばらくは為すがままに放っておきました。だが苦しい……首を絞められているので苦しい。なぜ首を絞める。

取り敢えずこういう時の対処法として口や鼻でなく、首の後ろから息を吹き出すような感覚で気合を込めると良いと聞いた事があったので試しにやってみました。心の中で『消えろ!』と気合いを込めて息を(首の後ろから出す気持ちで)『フン!』とやると、ものの見事に消えてくれました。助かった……そう思った次の瞬間、再び目の前に同じ女がドサっと現れて首を絞めてきました。

『何だこれは、こういう無限ループなのか……』

もう一度消えろ!と気合いと入れましたが消えません。もう一度消えろ!……消えない。そして苦しい。

『いったい誰なんだこいつは。オレに何の恨みがあるんだ』

色々言いたい事はあったんですが金縛りの最中なので声が出せません。眼球以外も動かない。もうこうなったら残る対処法は一つしかない。この状況を受け入れよう。そして受け入れると知らない内に眠っていました。

諸説ありますが、この種の心霊現象に対しては正直懐疑的な気持ちが強いです。個人的に人間や動物の強い怨念や祟りの類は信じてますが、こういう事は眠る時限定でしか起こらない現象です。夢うつつの錯覚。脳内だけで起こる限りなく夢に近い現象なんだと思います。金縛りも同様です。人の現実は脳に支配されています。目で見たものを脳が認識出来なければ見ることは出来ないし、何も見ていなくても脳が信号を出せば幻覚になります。

幕末の黒船来航の時、黒船が見える人と見えない人がいたという話があります。こんなものが世の中に存在する筈がないという固定観念により、目には映っても脳がそれを認識出来ない=見えないという人が何人かいたそうです。

似たような話でマゼランがとある小さな島に上陸した際、島民にはマゼランの船団が見えなかったという話があります。上陸の為小舟を出した時、島民にはその小舟が突然海に現れたように見えたそうです。島民には船=小型のカヌーという認識だった為、大きな帆船が知覚出来なかった。人間の脳が知覚出来ないものは、見る事が出来ないという話です。

ただこの話、そこそこ知られてはいるようなんですがソースが不明です。10年前ぐらいにこの話を知ってネットで調べた時は色んなブログに黒船が見えなかった話が載ってはいるんですが、それがどの資料に書かれたものかを提示している人は一人もいませんでした。ペリーの黒船は蒸気船だったけど帆もあったようだし、船と認識出来るものだった筈です。マゼランの話も同様です。マゼランのビクトリア号は巨大なガレオン船でなくキャラック船だった筈ですが、キャラック船のサイズを脳が認識出来ないなんて事があるんだろうかという疑問もあります。ましてや小さな島民なら祖先が海洋民族の可能性が高いし、海洋民族の古代船は意外にデカイものが多いです。

ただこういう話自体は面白いですね。シュレーディンガーの猫のように観測による確定の矛盾が量子力学の世界にはあるようです。誰も認識しない事象は存在が不安定だが、観測者がそれを認識する事で存在が安定するというものです。こういう事を考えると宇宙の果ては観測者が知覚出来ないから存在せず、観測者がそれを知覚した途端に現れるものなのかも知れませんね。幽霊も同様です。一度見えるようになると途端に見えるものかも知れないし、元々いないのかも知れない。ただあの首絞め女はきっと夢うつつの錯覚に違いありません。

Masaki Aio

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