ソラトブマチ

バンドをやっていた頃、ボーカルの友人で映画監督を目指している人がいました。彼は映像以外にも写真や絵、デザインなどのクリエイティブな才能に恵まれ、私達のバンドのロゴを作ってくれたり、ライブの写真を撮ってくれたり、イベントで使う映像を提供してくれたりと、度々お世話になった事がありました。その後、彼は映像作家としてのキャリアを着実に築いていたようで、これまでに何本もの映画を撮っていた事を知りました。

小原正至監督の2009年の作品『ソラトブマチ』。この度DVD化されたとの事で見てみました。不自由な安定を享受するマニュと、不安定な自由に固執するソラ。そんな対照的な二人が心を通わせる理想と、心を脅かす現実の行く末。

良い映画でした。生きる上で人が求める安心への無関心、無頓着はストイックの究極の形でしょう。たった1つの目的の為に人生を収縮させ、それ以外は求めない。それが貫ける人は本当に強い人間です。でもそれが誰かの犠牲で成り立つものならば、その形は安定したままではいられません。更に自分の目的が誰にも評価されず、ただの自己満足にしかならないものなら、そんな人生に先があるのか、価値があるのか。誰がそれを決めるのか。

芸術系の学校を出て、絵画やアートなどに人生を捧げた事がある人、音楽や特殊な分野で成功を夢見ていた人、或いは今現在そうである人は、何かしら感じ入るものが多い映画だと思います。

小原監督の他の映画は見てないので分かりませんが、この作品に関しては基本的にシリアスな映画です。パリが舞台で全編フランス語なので、雰囲気を含めフランス映画を見ているようでした。主演のケフィ・アブリックさん、長嶋美沙さんの演技も良いですね。最近の映画と比べれば画質は決して良くはないですが、見終わった後しっかりと心に残る映画です。

配給作品は個人で作れる産業ではないので、どうしても興行収益で価値が決まってしまいます。掛かる金や関わる人、規模がデカイだけきっとしがらみも多いでしょう。けど本当に良い映画とはそこにどれだけ毒されずに済むか、なのかも知れませんね。こういう映画がもっと受け入れられる土壌が日本にも欲しいものです。小原監督にはいつか大きな映画祭で受賞して活躍の場を更に広げて欲しいですね。

『ソラトブマチ』はTUTAYAでレンタルできるそうです。私のように地元にTUTAYAがないぞという人、ちょっと気になるぞという人はDVDを買いましょう。

『ソラトブマチ』(日・仏) 
監督:小原正至 音楽:CHIAKI
第2回福生映画祭正式招待作品
笹塚映像フェスティバル上映

Masaki Aio

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