Wilson & Sonsの謎のギター

新しいアコギが増えました。

私の所有ギターはエレキ2本、アコギ1本、クラシックギター1本、後はベースが2本です。アコギはヤイリギター(Alvarez Yairi)のDY-84MX。2001年に新宿で購入したものです。

アメリカで同時多発テロが起こった2001年という年は、自分の身にも様々な事が起こった年で、年の瀬にこのギターを買った時の情景は今も深く心象に残っています。

このDY-84MXは一本だけのプロトタイプで、2001年の楽器フェアで展示された後、ショップに流れたものです。

色々試し弾きをして気に入る音が見つからなかった時、店員が売り場にはなかったこのギターをバックヤードから持ってきてくれました。

翌2002年からこれの量産モデル・DY-84MがAlvarez Yairiから発売されています。材は、

トップ:スプルース
サイド&バック:キルテッド・メイプル
ネック:マホガニー
指盤&ブリッジ:エボニー

サイドバックがソフトメイプルなのできらびやかな音がします。これに後からピックアップを取り付けてエレアコ仕様にしました。

基本的にアコギはこの一本のみでしたが、4年前にレコーディングでシタールっぽい音が必要になった時、それっぽい音に改造したアコギをヤフオクで安く入手しました。確か1万で。

Wilson & Sonsというメーカーのギターで、元のブリッジを剥がして弦との接触面が広い手作りのブリッジがボディの上に乗って、テールピースから弦を張るように改造されたものです。特殊なブリッジで弦がビヨーンとビビりそれっぽい音になります。

4年前に使用して以来ずっとケースにしまいっぱなしだったんだけど、現在製作中の曲で再びシタールっぽい音が必要になり、4年振りにケースから出しました。

が、結局そのギターは今回使用していません。テレキャスをシタールっぽい音にするブラスサドルを新たに見つけ、そっちの方が音がしっくりきたのでそれでレコーディングを済ませました。

エレキのサドル交換だけで簡単にシタールっぽい音が出せるので、この改造アコギを持つ必要がなくなり、それだったら元の姿に戻して本来のアコギとして蘇らせようと思い立った訳です。

音の響き自体は非常に良く、作りもしっかりしたギターなので手間を掛ける価値はある筈です。

この謎のギター、本来ラベルが貼ってある場所には”Wilson”と刻印があるだけで、後はブレイシングに”77.02″の刻印があるだけ。1977年製なのだろうか。

Wilson & Sonsというメーカーは全く聞いた事がなかったのでこれまで気にも止めてなかったんですが、調べてみるとどうやら旧S.Yairiの海外輸出用モデルのようです(現在は倒産)。

元々Wilsonギターは1968~1970年に掛けて矢入貞夫氏監修の元、息子の矢入寛氏が製作したギターを納入していたようです。その後社名がWilson & Sonsになっても矢入氏がアコギの製作に関わっていたものと思われます。

Wilson & Sonsのアコギで見つかるのは自分と同じモデル名不明の謎のギターばかり。オーナーはみな日本人で写真で見る限りどれも同一モデル。S.YairiのYD-303(Martin D-35系)に非常に似ています。

もしかすると矢入貞夫氏、もしくは矢入寛氏が輸出用のプロトタイプとして40年前に何本か作った内の一本なのかも知れません。YD-303と同じ仕様なら、

トップ:スプルース単板
サイド&バック:ハカランダ
ネック:マホガニー
指盤:エボニー
になります。ちなみにSQネックなのでトラスロッドによる調整は効きません。

取り敢えずこれを元の姿に戻す為、テールピースを外し、剥がしたブリッジを取り付けねばならない。全く同じ形状のブリッジは手に入らないので、アマゾンでほぼ同サイズのローズウッドのブリッジ(¥380)とブリッジサドル(¥780)を注文し、接着用のタイトボンド(¥998)も一緒に購入しました。

ブリッジは注文後1週間ほどで中国から届いたんですが、ローズウッドは今年の1月からワシントン条約で輸出入が禁止になっています。

象牙やハカランダと違って附属書Ⅱによる規制なので、輸出許可証さえあれば商取引自体は出来るようですが、こんな短期間で問題なく届きました。これは本当にローズウッドなのか。

ともあれ届いたブリッジは作りも見た目も問題なく、サイズも剥がれたブリッジ跡とほぼ同一。これにブリッジピンを刺す穴をドリルで開け、リーマで穴のサイズを調整し、位置合わせをしてタイトボンドでボディに接着していきます。

接着したらクランプでガッチリ固定。クランプを締め付けるとボンドが端から溢れ出てくるので、濡れた布で拭き取りながら徐々に締め込んでいきます。この状態で2日間放置。

2日後クランプを外すとブリッジは完全に接着されていました。位置ズレもありません。

この状態でサドルをブリッジに付けて弦を張り、一度音を確認します。やはり良い鳴りです。ネックの反りもありません。オクターブピッチも問題なし。

ただ新品のサドルのままでは弦高が高すぎて弾きにくいので、サドルを削る幅を測定してから弦を外してサドル底面をヤスリで削ります。

12F上で弦との距離が6弦2.5mm、1弦2mmになるようにサドルを微調整して完成。

DY-84MXより小振りなドレッドノートだけど、こちらの方が音が異様に響きます。音に深みがあり、かつきらびやかで、よく弾き込まれた良い木の鳴りです。似非シタールなんかにしておくには勿体無い本物の楽器の音。

木の鳴りがとにかく凄い。壁に掛けて少し離れ、90度横を向いてクシャミをしても木が共鳴し、増幅されたクシャミが金属音を帯びて部屋に響き渡る。まるで天然マイク。

現行の20~30万する大量生産品のアコギより全然良い音がします。良い木材が使われてるのが分かります。今後大切に使っていきたいと思います。

ちなみにK.Yairi(矢入楽器製作所→ヤイリギター)の創業者・矢入儀市氏と、S.Yairi(矢入楽器製造)の創業者・矢入貞夫氏は兄弟でどちらも腕の良いギター職人でした。

そのK.YairiとS.Yairiのギターが偶然二本揃う事になり、どちらも海外輸出用モデルで、どちらもプロトタイプというのも面白い話です。

シェアする