猫の話

今回は猫の魅力について書いていきたいと思います。

動物は様々な進化の過程を経て現在に至っていますが、猫の選択した進化は他の動物とは一線を画しています。

光合成で生きている植物と違って動物は他の生き物を捕食してエネルギーを取り込んでいます。これにより動物は自力で動く事が出来、動く事で捕食と繁殖を可能にしています。そして他の肉食動物はその手段を狩り一択に委ねています。

でも猫は違います。猫には狩り以外の食料確保の手段がもう一つあります。

『人を頼る』

人を利用する事で猫は狩りに費やす時間を浮かし、好きなだけ遊び、好きなだけ寝て、好きなだけ毛づくろいが出来るようになりました。

元々人が猫を飼い始めた理由はネズミ対策の為ですが、高貴な身分の人たちの中には猫に魅了され猫を飼う人も沢山いました。

そして人の生活が豊かで便利になり、地域化から個別化の社会になった今では猫を家族の一員として飼う人も増え、猫たちは人に食料を提供させる為に他の動物が考えもしない技の開発に磨きを掛けてきました。

①『ゴロゴロ』ただ地面に寝転がるだけの何の意味もない行為ですが、人はこれを見ると喜びます。

②『香箱座り』ただ足を畳んで座るだけのポーズですが、人はこれを見ると喜びます。

③『声』喧嘩の威嚇が赤ん坊の鳴き声にしか聞こえない迫力のなさですが、それと引き換えにどの動物よりもかわいい猫なで声が出せる声帯を猫は持っています。勿論人はこの声に喜びます。

④『液体化』リラックスするほど原型が無くなっていく猫特有のフォルムですが、人はこの姿に心が液体化します。

⑤『上目遣い』媚びる以外全く使い道のない能力。でも人はこの目にメロメロになります。

⑥『猫パンチ』本来は狩りで使用する技ですが、人の鑑賞に堪え得る技でもある事を猫たちは知っています。

⑦『ゴロゴロ音』猫エンジン。

⑧『入れ物』箱芸をします。

⑨『スリスリ』本当に甘えたい時。食べ物が欲しい時。興味のない人間を振り向かせたい時。猫はちゃんと使い分けてます。

⑩『顔』夜行性なので周囲の明るさによって瞳孔や目の形が変わりますが、かわいい顔をする時はちゃんと目がまんまるになります。表情が豊かなのも猫の魅力で、猫たちは自分のかわいさを自覚しそれを武器にしています。世の美女たちのように。そして猫の瞳は宝石のように美しい。

⑪『模様』白と黒と茶の三色、そして無地と縞の組み合わせがなぜこれほど人を魅了するのか。そう思っている人はもう猫の下僕です。

⑫『気まぐれさ』猫はマイペースで自由気まま。そして飽きっぽい。スイッチが突然入り突然切れる。その切替の速さに人は置き去りにされ常に猫のターンです。

人に食べ物を完全依存した猫たちは基本的に目的を達しており、理由のない媚は売りません。またプライドも高いので人の命令は基本的に聞きません。

服従させるのは人間側のマウンティングで、猫はちゃんとその胸の内を見透かしています。身は預けても心は売らない。その誇り高さこそ猫の魅力です。

でも飼い主が本当に弱っている時は自分の時間を犠牲にして側にじっと寄り添ってくれます。自分が認めている人や好きな人の言う事も気分によっては聞いてくれます。

甘えたい時は甘えるし、一緒に寝たがったり、一人の時は飼い主の匂いのするものの上で寝たりもします。それも猫の魅力です。ちなみにここまで書いといて私猫飼った事ありません(笑)。

猫は犬と共に人と関わって生きてきた身近な生き物です。

本草和名(918)では猫の古語は禰古末。和名類聚抄(931~938)では禰古万。どちらも読みはネコマです。

昔は遣唐使船の経典をネズミから守る為に日本に連れてこられたのが起源とされていましたが、今ではもっと前から日本にいたと考えられています。

近年の発掘で弥生時代中期の壱岐の遺跡からは数匹のイエネコの骨が見つかっており、本土では6~7世紀の姫路や福井の古墳群から猫の足跡が付いた須恵器が見つかっています。確か愛媛でも同様の皿が発掘されている筈です。

猫の足跡が付いた皿や瓦は古代ローマやイギリスの遺跡などでも発掘されており、乾燥中の皿だろうが全く意に介さず踏み歩く猫らしさは昔から万国共通。みな作り直さずそのまま焼いているのもハートフルです。元の状態より芸術度が高いので当然といえば当然ですが。

日本で記録として猫が初めて登場するのは宇多天皇(867~931)の日記。黒猫を大切に飼っていたようで、香箱座りの記述や、他の猫よりネズミを素早く獲るという自慢をしています。

小右記には一条天皇(980~1011)が内裏で飼い猫の出産を祝う儀式をし、猫に乳母まで付けたという溺愛ぶりも書かれています。時の左大臣藤原道長も儀式に呼ばれ猫の誕生を祝ったそうです。

おそらく国内最古のペットロスの記述があるのが歌人として有名な藤原定家(1162~1241)の日記。超新星爆発の記述がある事でも有名な明月記です。

妻が飼い始めた猫を3年間かわいがっていたものの、その猫が野良犬に噛み殺されてしまい、その悲しみは人の死と何ら変わらないと嘆き綴っています。また犬が自由に出入り出来るようなボロボロの庭の塀も同時に嘆いています。

群れというコミュニティーを大切にする人に従順な犬と違って、猫は自分の時間や空間を大切にする基本単独行動の生き物です。私はそこにシンパシーを感じます。

人の言う事を聞かないだけで実は人の気持ちには敏感だし、何が言いたいのか感情を汲み取る能力にも長けています。逆に人の方が猫の感情を汲み取るのに苦労しているでしょう。人は言葉に頼りがちだから。

犬や猫などは肛門の匂いを嗅ぐ事で相手との相性を測る事が出来ます。近年では人の性格や性質は腸内細菌の影響を受けているとの研究もあり、子供は出産時に産道から母親と同じ腸内細菌を貰い受けて生まれてくる事が分かっています。

猫たちは腸内細菌による性質の違いを嗅ぎ分けられるのだろうか。だとしたら凄い能力です。まあ私猫飼った事ないんでよく分からないですけど。

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