レコードとCDの聴き比べ
今回は前々から取り上げたかったレコードに関する話を書きたいと思います。内容はビギナー向けです。レコード導入を考えている人の参考になればと思います。一切苦情は受け付けません(笑)。
以前このブログでCDよりレコードの方が音質が良い事に触れた気がしますが、私自身はレコード・プレーヤーを持っていなかったので、普段聞いてる音楽もCDや圧縮音源でした。
子供の頃はレコードが家にあったけど、まともに音楽を聴くようになった時はもうCDの時代だったので、レコードの音が良かったという記憶もありません。
だが十数年前、友人の家でレコードとCDを聴き比べた時にその音質の違いに驚かされました。
その時その友人にレコードに関する知識もレクチャーされたんですが、まず適当なレコードプレーヤーを買ってデフォルトのままで聴くならCDの方が音が良く聴こえます。
レコードをCD以上の音質で聞く為には、そこそこの値段のプレーヤーと、MCカートリッジが必要になります。
一般的に昔みんなが聴いてたレコードは殆どがMMカートリッジです(カートリッジとはレコード針を含んだパーツの事です)。
音楽が好きな人やオーディオマニアはこれを高いMMカートリッジや、MCカートリッジなどに交換して聴いていました。昔のFMラジオもMCカートリッジのターンテーブルで高音質の音楽を流していました。
今は再びレコード人気が再燃しているので、メーカーはUSB接続でPCと繋げるフォノイコライザー内蔵の手軽なプレーヤーを出していますが、やはりCD以上の音質で音楽を聴きたい人にはそれなりのプレーヤーが必要です。
現行でその最低基準の機種がDENONのDP-500M。取り敢えず今回これの新古をヤフオクで手に入れて、念願だったレコード・デビューを果たしました。
今までなかなか手を出さなかった理由は単に置き場所がなかったから。でも密かにレコード貯金を貯め、機材を整理する為にラックを組み直し、設置場所を確保してレコード・ライフに浸る準備を整えました。
もう長い事人の音楽で興奮する事がなくなっていたので、もっと良い音で音楽を聴けば何か変わるだろうかという期待を込めての事です。
MCカートリッジはNHKも使用していたDENONのDL-103を用意。状態の良いものをこれもヤフオクで入手しました。
レコードを再生するにはフォノイコライザーが必要だし、MCカートリッジを使うには昇圧トランスが必要になるので、簡易的にMM/MC両方使えるフォノイコライザーも購入。
後はそのうちスピーカーをワンランク上の小型スピーカーに変えて、全てのケーブルを自作すれば自分の環境は完成。
オーディオは拘れば切りがないし、高いものなど幾らでも存在するので、あくまで集合住宅の部屋で適正に聴ける音質・音量が目指すべき着地点。
車と一緒でこういうのは身の丈に合ったものでなければなりません。何に乗ろうが、人に何と思われようが知った事じゃないという気概が大切。
で、肝心なレコードはヤフオクやレコードショップを巡って好きなアルバムのオリジナル盤を集めていく予定です。レコードは再版された新品より、オリジナル盤といわれるファーストプレスの方が基本的に音が良いです。
書籍では初版も重版も中身は同じだけど、レコードはファーストプレスが最も音が良く、重版する度に音質が変化していきます。
レコードが出来るまでの工程を説明すると、まずミュージシャンがレコーディングを済ませて、エンジニアがミックス~マスタリングを終えるとマスターテープが出来上がります。
このマスターテープを元にカッティングが行われます。カッティングとはカッティング・マシーンを使ってエンジニアがラッカーを塗布したアルミ板に溝を刻む事です。
こうして出来上がるのがラッカー盤です。これがプレス原盤の大元になります。カッティングによって各音の鮮度やバランス、音圧まで決まるので、ファーストプレスのカッティングにはミュージシャンやプロデューサーが立ち会って直接指示を出します。
そうしてオッケーが出て出来上がったラッカー盤にメッキを掛けて型を取ると、溝が突出したメタルマスターという金属盤が出来ます。
このメタルマスターにまたメッキで型を取ると元のラッカー盤のような溝の凹んだ金属盤が出来ます。これがメタルマザーです。
メタルマザーにまたメッキを掛けて型を取ると、再び溝が突出した金属盤が出来ます。これがスタンパーと呼ばれ、このスタンパーを使って熱した塩化ビニールにプレスしてレコードが完成します。
マスターテープ ⇒ カッティングしてラッカー盤 ⇒ メタルマスター(凸型)⇒ メタルマザー(凹型)⇒ スタンパー(凸型)⇒ プレス盤(製品)
スタンパーは100kg以上の圧力を掛けて一枚一枚プレスするのでプレスする度に劣化していき、一つのスタンパーから作られるレコードには限りがあります(2,000枚程度)。
なので上記の工程を経て一つのラッカー盤から複数のメタルマザーや、更にそこから複数のスタンパーが作られ、それらを使ってプレスされたレコードが全てファーストプレスのオリジナル盤になる訳です。書籍でいう初版です。
けど同じファーストプレスでも一つ目のメタルマザーの最初のスタンパーと、最後のメタルマザーの最後のスタンパーでは音に明確な違いが出ます。
そしてセカンドプレス以降はラッカー盤の作成にミュージシャンの立ち会いはなく、カッティング・エンジニアに一任されます。
エンジニアの意向でラッカー盤の出来が変わってしまうので、音の鮮度やバランスや音圧が変わり、オリジナル以降は音が変化していきます。
洋楽の国内盤はマスターテープのコピーが本国から送られて日本のエンジニアがカッティングをするのですが、送られるマスターがコピーのコピーだったり、その更にコピーという粗悪品も多く、オリジナルのマスターと比べて音質が劣化しており、エンジニアが苦労する事も多かったとか。
レーベルによってはマスターテープのコピーでなく、メタルマザーが直接送られる事もあったようです。
そんな訳で人気があるレコードの主流はUK盤かUS盤のオリジナルです。そしてその見極めに用いられるのがレコードの盤面に刻まれたマトリックスナンバー。
これはエンジニアがカッティングをした際にラッカー盤に刻む管理番号で、そのままメタルマスターにも型取られてレコードの盤面(内側)にプレスされます。
マトリックスナンバーの枝番の末尾には-1Aや-2Cなどの番号があり、この数字が1なら最初にカッティングされたラッカー盤、2なら二回目にカッティングされたラッカー盤を示し、二回目のカッティングでオーケーが出ればそのレコードのオリジナルのマトリックス枝番は2になります。
末尾のアルファベットはデッカ・レコードのようにエンジニアのイニシャルの場合もあれば、コロンビアのようにプレスされる度にA、B、Cと連番で記される事もあります。
更にマトリックスナンバーを時計の6時に見立て、9時に使用したメタルマザー、3時に使用したスタンパーが番号やアルファベットで記されている場合もあります。
そしてマニアの多いバンドほど状態の良いオリジナルは高値で取引きされています。
ではここからはレコードとCDの音質の聴き比べです。
ツェッペリンのファーストとセカンドはいづれオリジナル盤を買うとして、最新リマスターのアナログ盤も下手な中古よりは音が良いという話なので、まずはLed Zeppelin Ⅳの最新リマスターのアナログ盤を買って、同じリマスターのCDと聴き比べてみました。
最初はMMカートリッジのまま。ソースは同じマスター音源のCDとレコード。これを同じアンプ、同じスピーカーで同時に流して、入力を切り替えながら視聴しました。
音圧は圧倒的にCDの方が高い。だがレコードの音量をCDと同じに合わせると音質はほぼ互角。CDの方が音がクリアだけど、全体のダイナリズムはレコードの方が若干勝る。
後はデジタルとアナログの質感の違い。ただこれは自分で切り替えながら操作して感じる部分が大きい。多分ブラインドテストでは分からない。
ここで再生を停止してカートリッジをMC針に交換。オーバーハングを調整してからゼロバランスを取り、針圧を調整して視聴開始。MCカートリッジに交換したレコードは音圧がCDにぐっと近づきます。
そして音量をCDと同じに合わせると音がCDより鮮明になり、掛けられたエフェクトや空気感がよりリアルに感じられる。ボンゾのドラムの迫力が増し、ベースのグルーブ感が際立つ。プラントのボーカルも生々しい。ギターは太く、芯と艶が増す。
昔友人の部屋で聴いた時はもっと良い音に聴こえた気がするけど、これは単純に機材の差か。けど十分に満足出来る音質。素晴らしい。
しばらくレコードの音に耳を慣らしてから、CDに切り替えるとややボヤケた感じに聴こえる。MMカートリッジと比較した時はクリアだったCDの音が平坦に聴こえる。
その後針圧を色々試した所、適正より軽くすると音の分離が際立ち音色の色気も増すようです。重くすると全体的に音が太くなり音圧も増す。でも音の分離は少し悪くなります。ここらへんは好みでしょう。
針圧が重い方がダイナリズムを感じるけど、軽くするほど個々の楽器が聴き取りやすくなり、コンプやリバーブの質感も感じ取れるほど音がクリアで生々しくなります。
後ダストカバーは外して聴いた方が不思議と音が良いです。これでスピーカーとケーブルも変えれば更に良い音になってくれるでしょう。これなら金を掛けてレコードを聴く環境を作った価値もあるというもの。
ただ相当な音楽好きでなければお勧めはしません。CDでもUSB DACでサンプリングレートを上げればかなりレコードに近い音質は得られると思います。
ただレコードにはレコードにしかない魅力があるのも事実。音楽を聴く為に手間を掛ける行為や、カメラのレンズ並みに取り扱いがデリケートな盤面は煩わしかった反面、雰囲気や情緒、ジャケットのアート性や所有感がありました。
自分の買った音楽をスピーカーの前でじっくり聴くという行為は、もう若い人の大半が知らない失われた情景なのだと思います。
だからこそ今レコードが再ブームになっているのかも知れません。音楽をちゃんと聴きたい人が若い世代の中にもちゃんといて、そういう人たちは時代に逆行して自分の意思でその手間を選択している。イヤホンやヘッドホンでは体感出来ないものを求めて。
※追記 (2/14)
Guns N’ RosesのAppetite for Destructionの発禁ジャケUSオリジナル盤と、AerosmithのRocksのUSオリジナル盤が届いて視聴しました。どちらもCD以上の大迫力でした。
他にも何種類かのレコードを聴き比べましたが、モノによってはリマスターされたCDと大差ないものや、それ以下のものもあるので、全てのレコードがCD以上の音質で聴けるわけではありません。
やはり状態の良いオリジナル盤か、同等に評判の良いリマスターを探す必要があるようです。
※追記 (8/28)
USB DACを使ってCDプレイヤーのサンプリングレートを96kHz/24bitの疑似ハイレゾ再生にして再び聴き比べをしました。
結論としてDENONのDP-500Mで聴くオリジナル・レコードは、96kHz/24bit の疑似ハイレゾ再生のリマスターCDとほぼ同等の音質でした。
次にレコードプレイヤーのフォノイコライザーを合研LABのGK03APに変え、昇圧トランスもAU-305に変更して聴き比べをしました。
再びレコードの方が良い音になりました。96kHz/24bitの疑似ハイレゾ再生以上の音質でした。
お金を掛けるほど音が良くなる事は分かりましたが、自分はもうこれで十分です。キリがないのでこれで最後の追記とさせて頂きます。