ロックの歴史【デルタ・ブルース編】
このブログで音楽のネタをあまり取り上げていない事に気づき、今回はロックの歴史です。何回かに分けて掲載したいと思います。
ロックとは何なのかといえば、今となってはただのファッションです。バンドマンには幻想を抱くロマンチストが多いので自己満足のモチベーションに酔いがちですが、音楽で世界などは変えられません。もし変えられるとしたら、世界を変えるだけの影響力を持ったカリスマが音楽という手段を用いた時でしょう。
ロックは娯楽とは別種の何かでもなければ芸術でもありません。単なるエンターテインメントです。そして産業ビジネスである限りその本質も単なる流行りものです。恒常的な音楽とも異なります。
30歳以上の人はロックに特別な思いを抱く人も多いかと思いますが、それは自分の信じる神だけが特別だと思い込む信仰のようなもの。だがかつてロックが単なるエンターテインメントではなかった一時代が確かにありました。
まずロックを語る上で避けては通れないものがブルース。
ブルースは19世紀の後半にアメリカ南部で生まれた黒人の音楽です。アコースティック・ギターを使ったシンプルな12小節の弾き語り。シャッフルのリズムに織り交ぜたブルー・ノート。オープンチューニングのボトルネック。
それらは現在『デルタ・ブルース』と呼ばれ、主に黒人専用の酒場などで演奏されていました。
1863年のリンカーンの奴隷解放宣言以降もアメリカ南部では黒人への差別が根強く、KKKによる凄惨なリンチが当たり前のように行われていました。
今より信仰心が強く、まだ厳しいモラルが残っていた時代、20世紀前後のアメリカ南部の片田舎の日常風景は、子供を連れて黒人のリンチを見物に出掛ける白人家族の姿。子供たちはおみやげに彼らの肝臓の薄切りをねだったという逸話も残されています。わずか100数年前の話です。
残酷さ、支配欲、優越感は人の本分。ブルースは黒人の魂がそれに抗い、搾り出した祈りのような娯楽音楽でした。
1920年代からアメリカの黒人は人種差別が根強く残る南部を捨て、アメリカ北部を目指す旅に出ます。およそ30年間に渡って続くアフリカ系アメリカ人の大移動です。
ミシシッピ出身のブルースマン達もこの時同様に北部を目指します。シカゴへ行けばそこに差別はない、自由があると信じて。
そしてシカゴに着いた彼らを待っていたのは、変わらぬ差別でした。この旅の途中、彼らは行く先々でブルースを歌い、この時ブルースが各地に広まったと考えられています。
戦前の伝説的なブルースマンといえば、誰もが真っ先に思い浮かべるのがロバート・ジョンソン。
当時としては少し特殊なギター奏法で歌に彩りを与えていました。その高い技術と独創性はキース・リチャーズ曰く『脳みそが三つ必要』。
今でこそ同じように弾きながら歌う事は技術的に可能ですが、所詮それはただのコピー。あのフィーリングの再現までは出来ないし、オリジナルとモノマネでは同じ土俵にすら立てていません。
ロバート・ジョンソンで最も有名なエピソードといえば、夜中に十字路で悪魔に魂を売りギターの腕を手に入れたという伝説でしょう。
歌詞の中にもその悪魔は登場し、彼は27才で短い生涯を終えます。その死因は毒殺とも刺殺とも病死とも、或いは悪魔に憑き殺されたとも言われています。
ここで少し余談になりますが、黒人の奴隷化や入植時代のネイティブ・アメリカンの大量虐殺は、今日『マニフェスト・ディスティニー』という言葉で正当化されています。優れた民族がより早く土地を文明化させる為の必要悪という意味です。
アメリカ合衆国の歴史はピューリタンがヴァージニアに入植した16世紀末から始まりますが、最初の入植は失敗に終わっています。その後も彼らは何度か入植を試みますが尽く失敗。
先住民との小競り合いもあったようですが、失敗の大きな理由はアメリカの冬の寒さと風土病、そして飢えが原因だったそうです。彼らの持ってきた種はアメリカの土壌にはどれも合わなかった。
だがある時先住民の一部族が入植者達に食べ物や毛皮を分け与え、彼らにトウモロコシやイモの種とその栽培方法を教えてくれます。入植者達は収穫の際、先住民たちを招いて共に食事をし、これが感謝祭の起源になったといわれています。
その後増え続けた入植者は最終的に先住民を大量虐殺して土地を奪う事になる訳ですが、虐殺の相手が有色人種なら『マニフェスト・ディスティニー』、ユダヤ人なら『ホロコースト』というのは何ともおかしな話。
これはどちらも『ジェノサイド』であり、マニフェスト・ディスティニーはアメリカの歴史を正当化する為の便利な言葉に過ぎません。
当時の入植者たちの倫理観では入植者を飢えや寒さから救ってくれたのは神であり、自分が正しい信仰をしているから神が先住民を遣わして助けてくれたという理屈です。
先住民への直接的な感謝も当然あるし、友人になった人たちもいるが、本質的に感謝すべきは人でなく神であり、所詮先住民は野蛮な異教徒に過ぎない。一神教や新興宗教の熱心な信者に多い歪んだ選民思想です。
同様に入植時代の早い段階でアフリカから奴隷達が運ばれてきますが、彼らにとっては黒人も神が自分達に遣わした下僕という認識でしかなかったのでしょう。
そんな彼らの傲慢なヒエラルキーを皮肉った、12小節のシンプルなブルーズロックをここで一曲紹介したいと思います。
相尾マサキの『Manifest Destiny』ナイスロック!