Vinaccia 1924年製マンドリン

1stアルバム”Nostalgia”のリメイクですが順調に進んでいます。

これはリマスターでなく完全なリメイクです。録音は全トラック録り直し、歌詞もほぼ全曲変更。キー、展開、アレンジも曲によって変更します。

ボーカルは来月からレコーディング予定ですが、機材もレベルアップしてるので、全てがオリジナルを上回る出来になるでしょう。

アルバム”Nostalgia”の最後の曲はインストです。でも前半の主旋律にはメインパートがありません。

この曲を作ったのは上京前の20代前半の頃。ちょうど音楽にのめり込み、貪るように様々な年代の洋楽ロックを聴き込み、これで生きていくと決心し曲作りを真剣に始めた頃です。もう25年近く前の話です。

当時は全くジャンル違いの曲だった為、前半部分だけを書いて放置していました。その後上京して最初のバンドが解散した失意の中で後半のパートを書きました。20代後半の頃です。でもやはりジャンル違いなのでその後のバンドでも放置していました。

その後バンド形態での音楽活動に心底嫌気がさし、音楽から離れ、東京からも離れ、8年前に現在のスタイルで音楽活動を再開し、1stアルバムの制作に取り掛かった最初にレコーディングしたのがこの”Nostalgia”です。そのままアルバムタイトルにもしました。

でも曲の制作中頭の中でずっとメインパートだと思っていたアコーディオンのMIDI音源が全くピンと来ず、替わりの音を探す内に気付けば前半の主旋律がフルオーケストラになっていました。

今回のリメイクでこの曲をどうすべきか悩んでいたんですが、ふと『ああ、マンドリンだ』と気付き、そこからはもうマンドリンの事以外考えられなくなりました。

気付けばマンドリンを検索し、youtubeでイタリア人のおっさんのマンドリン演奏を聴き、心に空いたマンドリンフォルムの穴を埋めようとする日々。

マンドリンの知識をひとしきり吸収すると、自分が必要とするマンドリンはフラットマンドリンでなく、伝統的なラウンドマンドリンで、本場イタリア・ナポリの銘工のオールドマンドリンの音なのだと理解しました。

日本にも有名なマンドリン職人は何人かいて、個人的には日本の職人の腕は世界一だと思っていますが、楽器の場合手に入る木材が重要になります。この曲に必要な音はイタリアのオールドマンドリンの音です。

そして運良く安値で入手出来たのがヴィナッチアの1924年製オールドマンドリン。ヤフオクのリサイクルショップからの出品でした。同モデルの中古楽器屋での相場は30万ほどですが、三分の一以下の価格で落札出来ました。日本人に人気のカラーチェだったら競合していたかもしれません。

ヴィナッチアは18世紀から続くナポリの楽器職人の一族で、19世紀後半にジェンナロとアキッレの兄弟が”Fratelli Vinaccia”という工房を設立し、弟子たちと共にマンドリン製作を始めました。

カラーチェ、エンベルガーと並ぶオールドマンドリンの銘工ですが、その後戦争の影響で途絶えた為、1933年頃が最後期の作品になります。私が手に入れたのは1924年のものです。

材はスプルーストップ、リオ・ローズウッドバック。

アルマジロのようなラウンドマンドリンのフォルム。

当時のイタリア王国マルゲリータ王妃御用達のラベル。最下段に1924年の記載とFratelli Vinacciaのサイン。

楽器をオークションで買うのは賭けですが、これは当たりを引きました。96年前のマンドリンですが写真や説明文通り深刻なクラックもなく、ネック、指盤、フレット、ペグにも異常はありませんでした。

アームレストが元からないのか紛失したのかは不明ですが、きっと以前のオーナーさんが大切に使い、親族の遺品整理か何かでリサイクルショップにでも流れたのでしょう。

装飾の何もない簡素なマンドリンですが本当によく鳴ります。youtubeで聴いて欲しいと思ったヴィナッチアのオールドマンドリンの音そのものです。

最初に鍵の壊れた持ち手のないボロボロのケースを開け、初めて目にするマンドリンを手に取った時は、予想を遥かに超えた軽さと小ささに若干不安を感じ、弾いてみると全く鳴らず、不吉な予感が背筋を突き抜け思わず顔のパーツが中央に寄りました。

が、マンドリンはギターより1オクターブ高くチューニングする事に気づき、チューニングをやり直してからは心のマンドリンフォルムが埋まりました。

マンドリンは4弦の復弦楽器で、ギターとは各弦のチューニングが異なるので弾きこなすには練習が必要ですが、単音のトレモロだけならすぐにも弾けます。生楽器はその楽器の一番良い音で鳴らさなければ自分にも楽器にも変な癖が付くので、加減して弾かないようしばらくは防音室に篭って練習です。

これでNostalgiaのメインパート問題も解決しました。まだ収録予定の手付かずの新曲も残っていますが、自分にとって始まりの曲であったNostalgiaを一番最後にレコーディングして、それで終わりにしたいと思います。

アルバムのリメイクが完成するのは来年になりそうです。まあ今年中だろうが来年だろうが、作ろうがやめようが、気にする人も困る人も誰もいないでしょう。ただ自分はやるべく定めた事をやるだけ。

……と今までの自分なら言う所ですが、今は思考が再び一周して『でもやっぱり深い意味で無意味な事やってるよな』と思わずにはいられません。

何を作ったとしても、それが誰にも届かず、誰の心も動かさないのなら、やはり無価値な行為なんだと思います。自分がやっているのは個の追求であって、人の為になり人の役に立つ人生を本気で生きている人と比べると、やはり独りよがりで虚しい人生なんだろうと思います。

最も私は全ての人間の役に立ちたいとは毛ほども思ってない人間です。私は基本的に人が嫌いです。本当に善良で愛すべき人間などごく少数。そしてその少数と出会う事さえ奇跡のような出来事。だから人に対する関心が私にはありません。今や猫 >人です。

だからその類の価値とはきっと私は一生無縁なんでしょう。

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2件のフィードバック

  1. はじめまして。

    同型のFratelli Vinacciaを所有している者です。なかなか見かけない型なので、つい嬉しくなってコメントさせていただきます。

    私のマンドリンは1928年製で裏板もメイプルですが、サウンドホールが真円であること(楕円は多く見かけます)、裏の飾り板がないこと、ピックガードも木製(おそらくローズウッド)であること、といった共通点があります。一切の虚飾を排した、シンプリシティの極みのような型ですね。

    1920年代にはいり、イタリアのマンドリン業界ではRaffaele CalaceやLuigi Embergerが音量と遠達性を重視した型を製作し、Vinacciaには一時の勢いがなくなっていたようです。そこでGaetano Vinacciaという一族の人間が打開策としてBrevettato(特許モデル)を生み出し、ある一定の評価は得たようですが、やはりその後勢いを取り戻せずに消滅してしまった、不運の製作メーカーといえます。

    Vinacciaのマンドリンにはアームレストがないものが多いので、相尾さんの楽器もオリジナルのままなのだと思われます。

    Nostalgiaのリメイク版を拝聴しましたが、まさにイタリア映画音楽の響きでした。乾いていながら色気のある音色、まさによいVinacciaの鳴り方だと思いました。

    突然のコメント失礼しました。

  2. うたかたはいにしえよりさん。
    貴重な情報をありがとうございます。大変参考になりました。一切の虚飾を排しながらも音は素晴らしいVinacciaのオールドマンドリン。確かに所有者は少ないかも知れないですね。私も調べていた時情報の少なさを感じていました。
    新品でもヴィンテージでも楽器の値段=音の良さではないし、何を良い音と思うかも人それぞれですが、自分にとって価値ある音と出会えると嬉しくなりますね。

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