CUEシステム
今3rdアルバムに収録予定で、既に録音済みの曲のリミックス/リマスタリングをしています。
前回のブログでそれは後回しにして新曲に取り掛かる予定と書きましたが、3rdアルバムの後半のアイデアを思い付き、この作業を先にやっておいた方が効率的になるので予定を変更しました。
“Circulate Back”は元々48kHz/24bitで録音していたので、96kHz/24bitのハイレゾで録り直し、歌詞も少し変更して”Nehushtan”とタイトルを変えました。
また収録予定ではなかった”Wailling Bell”も構成を短く変えて収録する事にしました。この2曲のボーカルを今日録り直しました。
実は去年か一昨年から睡眠時の歯の食いしばりの影響なのか、耳が聴覚過敏ぎみになり、特にハイの音がやたら耳に突き刺さるようになりました。
職場で雑な人間がコンクリートの床にモノを叩きつける甲高い音がすると、脳が音で攻撃された感じになり不快感とストレスが増幅します。
その影響かは不明ですが、最近ボーカルの歌入れの時微分音を外す事が増えました。微分音とは半音の更に1/4~1/8の音程で、外す時は部分的にではなく一曲丸々外しています。録っている最中は気づかずミックスする時に気づきます。
耳が良い人でなければ気づかないし、微分音のズレは結構そのままにしてるシンガーも多いので、酷くない時はそのままにします。
ブルースなんかの曲によってはわざと外す場合もあります。でも許容範囲を超える違和感を感じた場合は録り直しです。
録音した音程を後からイジって修正する事は今では簡単に出来ますが、それは自分の主義として反則行為。
最近の歌を聴いてるとそれをやってない人を探す方が難しいぐらい今はフェイクボーカル全盛時代ですが、そこはちゃんとプライドを持ちたいと思っています。
MIDI音源への抵抗は今は完全になくなりましたが、歌とギターだけは本物である事にこだわっています。
これは多分捨ててはならないこだわり。だから納得いかなければ録り直します。でも時間も手間も掛かるのでテンションも下がります。
微分音を外す事はこれまでもたまにありましたが、外さないよう意識して外した時はさすがにまずいと思いました。耳の異常か脳の異常かと。
でもそれ以前に物理的な要因なんじゃないかと考え直し、まずは今更ながらキュー・システムを見直す事にしました。
キュー・システムとはボーカルのレコーディング時に、オケの音、クリックの音、自分のボーカルの音を手元のフェーダーでそれぞれ操作して、歌いやすい音量に調整するシステムです。
返しの音だけにコンプやEQやリバーブも付加出来るので非常に歌いやすくなります。ボーカルのレコーディングをする際はどこのスタジオにも必ず設置されています。
自分は今までどうしていたかというと何もしてません。オケの音とマイクプリからのボーカルの音をPro Tools側で大雑把にフェーダー調整して、オーディオI/Fから直接ヘッドホンでモニターして歌っていました。
返しのエフェクトが何もなく、そのままでは歌いにくいので右耳をヘッドホンから外して生声をモニターし、左耳でオケをモニターしながら歌っていました。
なぜそうしていたかといえば特に問題なかったからです。それで歌う事に。
でも微分音を外す物理的な要因として、レコーディングの環境改善が必要と考えを改め、YAMAHAの3ch小型ミキサーAG03を買いました。
マイクプリからボーカルを、オーディオI/Fからオケをミキサーに入力して、クリックはPro Tools側で調整し、歌いやすい音量にフェーダー調節して、両耳をヘッドホンでモニターし、今日初めてキュー・システムを使ってボーカルのレコーディングをしました。
なんじゃこりゃ!ってぐらい歌いやすかったです。モニター音だけに掛かるコンプとEQの返しがあると凄く歌いやすい。
声の表情が作りやすいし、オケも自分の声も的確にモニターできる。微分音を外さなくなったばかりか、今までより上手く歌えるようになりました。
なぜもっと早くこうしなかったのだろう。たかが小型のミキサー一台あれば事足りた話なのに。これまでキュー・システムを作ろうという意識が全く頭に無かった。
今すぐ虎のマスクを被ってタイムマシンで過去に行き、片耳モニターで歌ってる自分に『これを使い給え』とAG03を渡してやりたい。そして受け取ったら四次元殺法を死ぬほど食らわして現代に帰りたい。そんな気分です。
新曲では繊細なボーカルが続くので、このシステムがこのタイミングで作れた事は重要でした。今まで自分は鉛のリストバンドを付け、今日それを外したら地面にめり込んだ。そんな気分です。
久し振りにボーカルのレコーディングが楽しかった。歌いやすい環境の大切さを思い知りました。
ちなみにYAMAHAのAG03はネット配信用に作られたミキサー/オーディオI/Fなので、ボタン一つでコンプ&EQ、リバーブを掛ける事が出来ます。
当然録音する音にはエフェクトは掛からず、モニター音だけに掛かります。MACKIEのミキサーと迷ったけど、キュー・システムにはこちらで正解でした。
ただ今まで出来ていた事が出来なくなった事には何らかの原因があるんでしょう。それが聴覚過敏の影響なのか、単純な老化による耳や脳の衰えなのかは不明ですが、これでまだ続けられそうです。まだ終わりではありません。