逆説の世界

新曲『逆説の世界』。
前作はアコギとチェロとボーカルだけのシンプルな曲でしたが今回は真逆。時間を掛けて構成を練った全32トラックのシンフォニック・ロックです。

今回のレコーディングからNEVE系クローンの最高峰AURORA AUDIOの1chマイクプリGTP1と、1176系コンプBLACK LION AUDIOのBlueyの実機を導入しています。機材の詳細はその内ブログに書く予定です。

シンフォニックなサウンドは時々やりたくなるけど、やったら当分は書きたくなくなる手の込んだ料理のようなもの。とにかく時間が掛かります。結局はそういう曲のアイデアが浮かぶか次第だけど、今回はこうした方が良いと思う方向に進めたら、自然とブラスとストリングスが必要になり、ついでにウッドウインドも足した感じです。

エンディングは当初は全く別だったけど、物足りなさを感じたので、以前使ったチェレスタのプラグインを使って今の終わり方に作り変えました。

この曲で表現してるテーマの根っこには、『人の価値は即物的な地位や階級でなく、精神の階層にある』という自分の考えがあります。

真っ当に生きるという事が何なのかはその時代によって変化します。常識とは各時代に則したテンプレートのようなもので、人の持つ価値基準も常にそこに委ねられています。それに則す限り価値とは知らずに与えられ、知らずに受け取っているものに過ぎず、現代に於ける成功という価値は高い地位や階級を手にして社会で優遇される事でしょう。つまり今我々が是としている価値とは現代の社会基盤や経済を成立させる為に必要な常識や報酬であり、その常識が良識を上回る価値を持てば、逆説的に人が生きる意義や目的は失われていきます。

それら常識に則した価値を壊す行為はこれまで歴史的に行われてきました。あらゆる主義や思想、革命や運動、信仰もそうであり、近年では文壇やロックやファッションがそうでした。今では全部ビジネスとしてエンタメに吸収され、常識に則した価値に成り果て中身が死んでしまった過去の遺物です。

それらは特別価値として正しいものではなく、単に新しく刺激的であったものです。そもそも正しい価値などというものが世の中にはありません。ただ共感出来るか出来ないかだけ。それ故に生きる意義や目的を即物的な社会の中に見出だせない人が、その答えをテンプレートの外に求めた時、初めて人は本当の自分と向き合えるようになります。自分を束縛してきた価値を一度全部捨て去る事で、守るべき常識は時間を掛けて独自の信念と哲学にすり替わります。価値は与えられ受け取るものから、自分の中で創造し、自分の審美で見極めるものに変化します。そしてそれが確立された時、世界の形は全く違って見えてきます。精神の階層が変わるからです。

この曲はその観念の延長線上にある足掻きです。詞は日本語と英語のミックスです、日本語にするのが無理だった箇所は英語で書いています。最近は日本語を乗せるのが難しいメロに言葉を崩さず上手く乗せる若手のミュージシャンが結構いますが、ああいうセンスが羨ましいです。

次に作る曲の断片は既にあるけど、レコーディングする段階にするまでにはまだ時間が掛かるので、年内はこれが最後の曲になるでしょう。

Masaki Aio

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