灰とノイズ

新曲『灰とノイズ』。マイナー調のシンプルなバラードです。今回からミックス時のメインリバーブをUADのOcean Way Studiosに変えて、楽曲のなじみがより自然になりました。バラードなのでちょっと強めにリバーブを掛け、音圧もいつもより上げています。

最近は恐ろしい時代で映像でも音楽でも何でもフェイクが作れます。昔のアーティストより今の方が歌がうまく聞こえるのも、単に後からいじる技術が進化してるからです。外した音は簡単に修正出来るし、音程を変えたりビブラートを後付けしたり、事前にプログラムさえ組めばライブでも外した声が正しい音程でスピーカーから聞こえてきます。もう何が本当なのか分かりません。

私は作る側なので『ああこれはやってるな』というのは結構分かります。本物の声特有の揺らぎや不安定さが一切ないのが逆に不自然なのは結構ありますが、youtubeなどでビフォーアフターを見ると全く分からないものもあります。それがアーティストの意思に反したものから、そうしないと売り物にならないものまで、ミックス時にプロデューサーの意向でいじられたものがごちゃ混ぜに氾濫してます。今はフェイクとリアルが混ざり合った時代で、受け手側はそれに気づけもしません。情報にしても何にしても。

個人的な事を言えば私の音楽はMIDI音源を使っています。ドラムやピアノや管弦楽は全部キーボードで作る疑似音源。つまりフェイクです。私の音楽もリアルとフェイクの混ざり物です。純粋な本物志向の人はこれに拒絶反応を示すでしょう。でも曲の要となるボーカル、ギター、ベースは全部魂を込めた本物の声と音です。パンチイン（気に入らない箇所だけ録り直したり、別テイクに差し替えする事）はオッケーにしてるけど、ボーカルの機械修正などプライドが許さないし、そんなものを使わなければならない程度のレベルならハナから音楽への執着もありません。人並み以上の事が出来るから作るのであり、そこがリアルだから価値がある。

最も人によってはパンチインさえ邪道という人もいるでしょう。先日亡くなったジェフ・ベックがレコードは嘘つきでライブこそ本物だと言ってたのも、スタジオで作られるレコードに彼がリアルさを感じられなかったからでしょう。それはジェフ・ベックがインプロで音を作る天才であり、曲作りが自身の音楽の目的ではなかったからでしょう。私は逆に曲作りこそが音楽の目的で、それ以外を一切捨て去る事でこれを成立させています。

こういうのは結局誰がどういう立場でものを言うかという話で、正解などありません。あるのは信念だけです。その信念ですら迷いによって常に揺らぐものです。どれだけ上手に自分をコントロールしても、人はいつもニュートラルでなどいられません。それらに悪影響を及ぼす外的要因によって。だから私は自分のしてる事に否定的だったり無関心な者を精神的に全て捨て去る事で非常に楽になりました。そしてこの曲が生まれました。私はずっと自分のしてる事の価値を知っています。